税金の世界史

古代から現代まで税金の歴史と文明の興亡との関係を分析する。

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「Daylight Robbery」は英語の慣用句で「白昼強盗」を意味します。ただし、この表現にはれっきとした語源があり、それが本書の主題そのものになっています。

1696年、イングランド政府は家屋の窓の数に応じて税金を課す「窓税」を導入しました。反応は予想どおりでした。人々は税を払わないために、自分の家の窓を煉瓦で塞いでしまったのです。光も、空気も、通風も、すべて自ら手放しました。暗くなった家では結核が広がり、公衆衛生は悪化していきました。この法律は155年間も続きました。政府は文字どおり国民から昼の光を盗み、そのおかげで英語には「daylight robbery」という慣用句が残ったのです。

このひとつのエピソードが、本書全体を要約しています。課税は必ず人の行動を歪め、人は必ず抜け道を探し、歴史は驚くほど正確に同じパターンを繰り返してきました。

税金が滅ぼした文明

古代エジプトの穀物税、ローマ帝国の人頭税、中世ヨーロッパの十分の一税、ブルボン朝フランスの塩税、近代の所得税。著者ドミニク・フリスビーは数千年におよぶ課税の歴史をたどりながら、ひとつのパターンを繰り返し示します。低税率の社会は栄え、高税率の社会は崩れる、というシンプルな構図です。

ローマの崩壊を「蛮族の侵入」だけで説明するのは、話の半分にすぎないと著者は言います。ディオクレティアヌス帝の税制改革以降、帝国民の税負担は記録的な水準まで膨らみ、農民は土地を捨てて逃げ出し、富裕層は資産を国境の外へ逃がしました。国家が徴収できる額よりも速く、税源そのものが蒸発していったのです。崩壊は外からではなく、内側から始まっていました。

著者は同じ論理を、新大陸の銀を使い果たしたあとに税で経済を絞り上げたハプスブルク・スペインにも、革命前夜に塩税で農民を追い詰めた旧体制のフランスにも、目に見えない課税で生産性を蝕んだソビエト連邦にも当てはめます。舞台と言語は変わっても、構造は同じです。課税が限界を超えると経済活動そのものが隠れる。活動が隠れると税収は減る。減った税収を補うために、政府は税率を上げるか新しい税目を作る。螺旋は下にしか向きません。

最も巧妙な税、インフレーション

本書がほかの税金史と決定的に違うのは、終盤の章です。フリスビーは、現代国家が使うあらゆる税のなかで最も巧妙なのはインフレーションだと断言します。

インフレーションには法案も、国会の採決も、公式発表もいりません。中央銀行が通貨供給を増やすだけで、国民の貯蓄と賃金は静かに目減りしていきます。納税通知書は届きませんが、税金はすでに徴収されています。しかもそれは、現金資産の比率が高い中産階級や低所得層に、より重くのしかかります。資産で富を持っている富裕層よりも、現金で持っている人のほうが強く削られるのです。著者がタイトルを「Daylight Robbery」とした本当の理由はここにあります。窓税は少なくとも税金と呼ばれていました。インフレーションはその名前すら名乗りません。

フリスビーはこの点で徹底しています。現代の税金論議のほとんどは、公式の税率と税目をめぐって交わされます。しかし、現実に最も大きな富の移転を生んでいるのは税法ではなく通貨政策です。税法は投票にかけられます。通貨政策は、ほとんどの場合、かけられません。だからインフレーションは民主的な歯止めを素通りするのです。

ビットコイナーへの問い

フリスビーはイギリスのコメディアン兼作家で、早くからビットコインを支持してきた人物です。本書の最終章で、著者は挑発的な問いを投げかけます。

もし国家がもはや市民の資産を自由に追跡・差し押さえできなくなったら、課税する権力はどうなるのか。ビットコインのように検閲できず、押収もできない価値保存手段が普及したとき、政府は現在の税率を維持できるのか。

フリスビーの答えは慎重ですが、はっきりしています。歴史的に見れば、徴税の力は常に国家の技術的能力とともに拡大してきました。農業の記録、貨幣、銀行口座、電子決済。これらはすべて、国家が国民の経済活動をより細かく覗き込めるようにするための道具でした。ビットコインは、その方向を初めて反対側に向けた技術です。

著者はこれをユートピアとして描きません。ただ、数千年のあいだ一方向にしか振れてこなかった振り子が、初めて逆側に動きはじめる可能性が生まれた、と言っているだけです。その可能性をどう受け止めるかは読み手に委ねられています。

この本を読む理由

税金の歴史を扱った本はたくさんあります。本書の強みは二つです。

ひとつめは、純粋に面白いこと。フリスビーはもともとスタンダップ・コメディアン出身で、文章の端々にイギリス流の乾いたユーモアが染みついています。税金を扱った本がここまで楽しく読めるのは、ちょっと珍しい体験です。

ふたつめは、過去が現在と地続きになっていること。ほとんどの税金史は古代から近代で筆を止め、解釈は読者に委ねてしまいます。フリスビーは過去を道具として使い、現代の通貨政策と財政政策を読み解き、さらにもう一歩踏み込んで、ビットコイン時代の国家がどう変わりうるかまで推論します。読み終えると、経済ニュースの読み方そのものが変わります。

ビットコインに興味があってもなくても、歴史が好きでも苦手でも、本書はあなたがこれから一生払い続けるであろう税金の見え方を変えてくれます。それだけでも読む価値のある一冊です。

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